続・美しい人

やっぱり、今日も一日後悔の念の中で過ごしている。
過ぎ去った事をうじうじ考えても仕方がない。
でも、私はもうしばらく、飽きるまで、うじうじと考え続けるだろう。
恋が始まる瞬間のあのきらめきの中に留まって、
私の中で一体何が起きたのか、分析することを辞めないだろう。


アルバイト仲間に相談したら、
探偵ナイトスクープに探してもらったら?確かそんなコーナーが昔あったよ。」
と、言われたのだけど、彼を探偵ナイトスクープの世界に引きずり込むのは、
何よりの罪悪のような気がするので、私はけしてそんなことはしない。


今思うと「ときめき」は人生において何よりも代え難い宝物である。
なにしろこちらは一切計算が出来ない、事故のような、天からの恵みのようなものである。
しかも、一切の情報が与えられていない、言葉も交わしていない、
そんな状況の中での、あの「ときめき」である。
それはほとんど奇跡に近いものだと思う。
これまでの人生で自分の中でそんなことは起こらなかったし、
これからも起こるかどうかは未知数だ。
そんな貴重な体験を次に繋げることなく、棒に振った。
これはとんでもない失敗をやらかしてしまったのではないかと、
かつてない後悔をしているのだ。
人生の楽しみのほとんどをドブに捨てたようなものである。


もちろん彼はもしかしたらどうしようもない人間だったかもしれない可能性はある。
女たらしであるとか、借金まみれであった可能性がないわけでもない。
話しをしたら実はしょうもない人間で幻滅することだってあったのだろうけど、
もう幻滅することさえ出来ない。
私が受け取った情報は、まぶしい一瞬の光で、そのままなのである。
まぶしい一瞬の光は、私の中でますます輝きを増し続け、
一向にかげりを見せる事はない。
神格化がどんどん進む一方なのだ。
全く一体なんなのだ、この体験は。


もしかしたらバリ島あたりにいる、日本人女性客を狙っているバリの男たちの魅力に、
近いものがあるのかもしれないと思う。
私はバリ島に行った事はないのだけど、なんとなくそんな気がしている。


「ときめき」とは一種の変性意識であり、日常のなかに潜む超常現象であり、
さまざまな事が吹っ飛んでしまうほどに暴力的な一面を持つ。
洗脳とか、そういったものにも近い。
人生の色が一変してしまうほどの力を持つそういった現象に出会うことは、
この世の神秘以外の何ものでもない。


とにかく彼との出会いは私の人生に思いがけない恵みをもたらした。
二度と出会わない事で、幻滅や失望を許されていないのは、
それはそれで、ある種の幸運なのかもしれない。
もう一度出会ったら「あのかんじ」が再現できるかと言えば、
そういう訳ではない気がするのだ。
そんな、儚い一瞬で永遠の夢を味わったような気がする。
「あのかんじ」を私は探し続け、求め続け、表し続けたいと思っている。