魔女は恋をするとただの女になる

ジブリの「魔女の宅急便」で、
キキがスランプに陥る。
あの怖さ、知ってる。


飛べなくなることが一番の恐怖。
飛べることさえ出来たら、それでいい。
魔女は恋をするとうまく飛べなくなる。
魔女はただの女になってしまう。
飛びかたを忘れてしまうのだ。


魔女にとって恋は天敵。
恋をすることでエネルギーが全部好きな男の子に注がれてしまう。
それは無意識のうちにやってしまって、
止めようとしても、止められない。


恋をするとぐちゃぐちゃになる。
凛と、清く正しく生きていたのに、
ドロドロしたものが溢れ出る。
魔女は悪魔でもある。
いろいろな世界と繋がっているから、
ひとたび恨んでしまうと、
たくさんの悪魔が集まって、
手助けしようとする。
魔女はそうなることを恐れている。


飛び方を忘れた魔女は魔女ではない。
魔女は魔女であることに誇りを持っている。
なぜなら魔女は色々なことがわかる。
世の中の流れが読めるし、動物や植物と言葉を交わすことも出来るし、
美しいものの芯を食べることができる。


それでも魔女はときどき恋をしてしまう。
魔女は孤独だからだ。
孤独な魔女は本当は誰かをじっと待っている。
だから誰かが来たら招き入れてしまう。
そしていつも間違えて失敗してドロドロになって、
気がつくと悪魔を従えてしまう。


本当はみんな追い払うのが一番いい。
追い払ってしまえば、
ずっと魔女のままで強く生きていける。
わかっているけれど、
魔女は恋の味がどんな魔法よりも甘くておいしいことを知っている。
魔女は今日も性懲りもなく、
恋をして、飛び方を忘れて、ドロドロになって、後悔している。
そして飛び方を思い出そうと必死になっている。
そんな、いじらしい、生き物。