オリジナルであること

村上春樹のロングインタヴューを読み終える。
 
読んでいてまず思ったのが、
村上春樹についてああだこうだと語る事自体が、
ひどく無粋な事のような気がしてくる。
それぐらいに確立されて、洗練され尽くされていて、
絶対的なオリジナリティを持った世界を確立している、という印象。
とはいえ、個人的に「この人のこの部分がなんだかいやだな」と、
感じたりする部分もあって、完璧ではない感じが、
逆に好感が持てたりする。
多分、普通にこだわりが強くて、普通に頑固で、
普通に美しいもの、端正なものが好きな、普通の変な人なんだと思う。
普通すぎて、変すぎる、という世界。
そして人よりも何かが突出して優れている人。
 
あえて無粋な事をしようとすると、
村上春樹は徹底的に『個』と『自由』の世界に生きていると言える。
この世の中に、ここまで、『個』であり『自由』に
生きれる人はいないのではないかと思う。
まず第一に魅せられるのはその部分だ。
普通、私たちは家族、会社、などに属することで、保護される。
その代償として、自由や個を取り上げられている。
社会に保護されないと生きていけないのが現実だ。
村上春樹を悪く言う人の中には、もう自分が手に入れられないものを、
堂々と手に入れている者に対する嫉妬も少なからず、
含まれているのではないかと思う。
 
次に本当に新しいタイプの小説家だ、ということ。
こんな小説家は今までいない。
大抵、自殺をしたり、アルコール依存症に陥ったり、苦悩の晩年を送る事が多い。
孤独な創作活動から、袋小路に陥ってしまうのだ。
しかし、村上春樹は歳を重ねるごとに、
どんどん通気性がよくなっている、という印象がある。
創作活動と同時に通気性がよくなるための努力を怠っていないという感じ。
「僕は基本的に人間というのは実験室みたいなものだと思っているんです。」
という言葉もいい。
新しいタイプの小説家、ということは、新しいタイプの人間という事だ。
村上春樹がやる人間の実験の成果によって、
人間の生き方の幅がぐっと広がり、後に産まれてきた人は、
彼の生き方を参考にして、より生きやすい生き方を模索するのだろうと思う。
 
一番引っかかったのは聞き手と村上春樹とのこのやり取り。
 
「われわれはいまひょっとすると、
自我を含む自己の新たな組みかえを迫られている時期に来ていて、
村上さんの小説が世界的に読まれているのにも、
そういう背景もあるかもしれない、ということですね。」
「詳しい説明はできないけれど、そういうありありとした実感を持っています。
“神話の再創成”みたいなことがあるいはキーワードになるんじゃないかと、
個人的には漠然と考えているのですが。」
 
ニューエイジというか、五次元文庫系にはよく話題に出てくる、
新しい波みたいなもの。
そういうものをどうしても連想してしまうのだけど、
それを乗り切るための準備というか、
精神のバーションアップがとても重要な気がしていて、
“1Q84”はそれのノウハウがこっそり書かれているんではないか、
という想像が突如自分の中で広がったので書いておく。
 
物語の可能性はますます広がっているように思う。