雨がやんだら行かなくちゃ

「人間とはどう頑張ったって筋が通らない生き物だ。」
 
尾崎翠を読む。
そこにある空気。魂の在り方。全てが私をあたたかく包んでくれた。
出会えてよかった。
 
とうとうと流れる軽快な言葉のリズムは、
人という生き物の可能性について示唆する。
「このままでいいんだ」
誰かの手がそっと肩に置かれているようなそんな安心感。
ひとつの世界では不器用であっても、
誰にも感知しえない世界では雄弁に振る舞える。
そういう世界がひとつでもあれば良しとしなくてはいけない。
  
世間一般的な幸せとはほど遠いかもしれない。
けれど、幸せには本当にいろんな形がある。
ただ、私と神との間に交わされた契約を、
思い思いに過ごしてゆくことの中でしか理解することは出来ない。
 
旅人には旅人の流儀がある。
 
どうか見失わないように。
ずっと同じ景色を見ていたいわけではないけれど、
ただ、たったひとつの本当は握りしめていたいと思う。
 
母が死んでも、父が死んでも、私はそれほど悲しくならないと思っていた。
私はういう氷みたいな世界を持っていると思っていた。
でも今日、ふといつか居なくなる猫のことを想像した。
たまらなく悲しくなった。
猫は猫の肉体を持ったそれ以上の何かだと思った。
肉体を動かしているそれ。
エネルギーの固まりみたいなもの。
それがひとつでも消えてなくなることって世界にすごい影響を与えてるんじゃないかと思った。
でも、それは毎日数えきれないほどのそれが消えて、
数えきれないほどのそれが産まれている。
そのなかのひとつのそれが巡り会ってここにあることを想像すると、
なんとも言い難い気持ちになる。
 
日々周りの人の不浄な思惑が流れ込んできて右往左往してしまうこの不自由な体で、
そういうことを思えることはなかなか難しいのだけど、
今日はそういうことを思える日でよかった。
 
惰眠と、秋晴れと、さわやかな風のおかげだろう。