バッドトリップ

なんの薬物も使用することなく、
どんどん意識を集中する事によって、
勝手に脳内覚醒状態になり、
凄まじい思考の渦に引き込まれる事がある。
いわゆる「思い詰める」という状態なのだけど、
これがほんとに恐ろしい。
不安、恐れ、恨み、呪い、死、しかない。
冷や汗、浅い呼吸、開く瞳孔、手に汗滲む感覚。
思考が鎖に縛られたように一切外に出る事が出来ず、
どんどん精神がやせ細り、枯れていくのが解る。


これが通常の状態だと、
「アホだな。なんでわざわざそんな状態に追い込むんだ。」
と冷静に判断できるのだけど、
一旦その次元に入り込むと、客観的に観る事が難しくなる。
死ぬ間際、ギリギリの人間の精神とはきっと相当なバッドトリップ状態に陥っている。
この状態が慢性化するとかなり危険だけど、
ふとした瞬間に解放され、
「ああ、まだ生きる余地は腐るほどあるではないか」
と思い知る。


しかし、その一時的に脳内に傾れ込む地獄の世界に、
ふっ、と足をすくわれる事がある。
この世で生きる事を辞める。
あの世はすぐ近くにある。
実際いつでも死ぬ事はできるが、
生き続ける事は貴重だ。
生きるという体験はどんなに最悪な状況に陥ったとしても、
不思議なことこの上ない。


私は深くて暗くてじめじめとした闇を持っている。
それは紛れもない事実だ。
ありとあらゆる命を引きずり込みたい衝動がある。
しかし人は闇は怖いのだ。
闇をなるべくみたくないし、明るい方へ行きたがる。
私は光はあまり好きではない。
というか、今なんだかそういう状態に陥っているので、
思う存分に真っ暗闇を生きようと思う。


シラフでこんな人間が薬物に手を出したらどんなになるか、
恐ろしくて仕方がない。
結局観なくてもいい世界を強制的に見せられ、
その耐性のない弱い人間が吞み込まれ、
人生を破滅させるのだと私は思う。
でも人生破滅させたければ、いくらでも破滅すればいいとは思う。
命は思っているよりも軽くて自由だ。

結局のところ私の魂が抱えているどうしようもない闇も認知して、
一緒に生きていくことでしか、世界の平穏はないのである。