夜に逃げろ

夜、窓を開けると気持ちがいい風が部屋を吹き抜けていった。
窓から空を見上げるとチカチカと点滅して、居場所を知らせながら飛行機が飛んでいた。
おぼろげな光の点滅は雲の影に隠れたみたいで消えてしまった。
格安で買ったベルギー産の缶ビールを呑みながら、おもっていた。
おもっていると、涙が出てきた。涙は止まらなかった。
こんな風に私はもう平気だと安心していると、突如私の深い部分が、
この世の深い所を探知して、突然涙を流させる。
こんな時は何にも考える事が出来ないし、考えるという行為が下等なことだと感じる。
ただ、泣けばいいし、悲しみに暮れればいいし、
その為だけに時間を使えばいい。
過去も未来も感じず、考えることもなく、深く深く感情に流される。
そしたら、多分、全然知らないところに辿り着いて、出会う。
一体誰に出会うかは解らない。
想っている人かもしれないし、全然知らない人かもしれない、
もしかしたら新しい自分かもしれない。
たくさんの涙と、缶ビール一缶で頭が朦朧としてきて、
何もしたくなくなった私は、とにかく睡眠に逃げ込みたかった。
この世のめんどくさい事すべてを放り出して、逃げる。
眠りに逃げ込んで、朝またこの世にカムバックしたらいい考えが浮かぶかもしれない。
そんな希望を胸に早々にベッドに潜り込んだ。
窓は開け放しにして。
早朝、風が随分強くなっている事に気付き窓を閉めて再び眠った。
これが台風の影響だと知ったのは、朝起きてからだった。