ヘロヘロになって神様を恨む

詩を読むのに適したところを探している。
詩を読むのに適したところは穏やかに流れる川のほとり。
太陽ではなく月光が好ましい。
満月の夜、わたしは窓を開け放して、月の光で詩を読む。
すると詩はするすると体の中に入ってきて溶けていく。
言葉そのものになる。
言葉そのものになると時間を忘れさる。
他人が入り込む余地もない。
そのような時間が人生の多くを占めるといい。
そしたら憎しみや恨みなど醜い感情はなくなるでしょう。


誰のことも気にならなくなればいいとおもう。
好きでもないし、嫌いでもない。
そのことに早く気がつけばいいとおもう。
そしたら私の汚い心に気がつかなくて済むのに。
そしたらその汚い心で傷つかなくて済むのに。
わたしは全てを忘れてしまいたい。
そしたら次に会ったとき、なんでもない気持ちで出会えるでしょう。
わたしが抱いた全ての感情をどこかに置いていけるでしょう。
感情は小学生のとき歩いた田んぼの畦道に落ちている。
もう誰も取りに行けないところに落ちている。


わたしは何も持たずにやってきた。
心と体だけでやってきた。
時間を経て、私は大人になった。
大人になったけど、やっぱり心と体しか持っていない。
体はいつか腐って無くなる。
心も無くなる。たぶん。
無くならないかもしれないけれど、
私はまだ死んだことがないのでわからない。
死んでみないとわからないことは沢山ある。
生きていると心を乱される。
思い込んで傷つく。ヘロヘロになって神様を恨む。
でもそれは筋違いであることに気付く。
わたしは心と体を与えられた。
それは何かすごくおもしろいことのように思う。
おもしろいことなのだけど、持て余している。
多くの人々を引き寄せて出会ったり離れたりして、
おもしろいことがある。
おもしろいと思った次の瞬間悲しくなるときもある。
思い込んで傷つく。ヘロヘロになって神様を恨む。
でもそれは筋違いであることに気付く。
わたしは日々喜んで悲しんで恨んで間違っていることに気付くことを
繰り返している。
わたしは何も持たずに帰っていくだろう。
帰った先では最初から神様を恨むことは筋違いであることを知っているのだろう、
となんとなく思っている。