役に立たない日々

こないだ映画館で源氏物語を観た。
生田斗真が主演の映画。
源氏物語はいつか読もうと思ってずっと読めていない作品だ。
「あれはエロ小説だ」とか色々とマイナスの意見も聞いたけど、
以前、河合隼雄氏の「紫マンダラ」とかいう源氏物語の解説本みたいなのを
読みとても感銘を受けたのだった。
紫式部光源氏という1人の男を通じて色んな女を登場させ体験させる、
つまり色んなパターンの女を細やかに書き分けているのだ。
その解説を読んで「紫式部すごいなー!」と驚いたものだ。
で、映画を観たのだけど、とてもおもしろかった。
おもしろくてすっきりした。
紫式部という人物の新たな解釈が広がった。
というのも、ここのところ、モヤモヤとした不穏な空気が支配していて、
どうもずっと苦しいような気分だったのだけど、
源氏物語」をみたら吹き飛んでしまった。
「魔を持って魔を制す」とはこのことだと思った。
一体なにが腑に落ちなくて、なにに傷ついて、なににつまずいていたのか、
全てが「源氏物語」に書かれていたのだ。
やはり「紫式部すげー!」という1000年も前の女流作家に対する、
敬意がより強まった結果となった。
考えてもみれば、与謝野晶子田辺聖子瀬戸内寂聴までが、
源氏物語の現代語訳に挑戦しているのである。
どれほど魅力的な物語内容であるかは、想像するに易い。
いずれ現代語訳された「源氏物語」を読むつもりだ。
ちなみに「魔を持って魔を制す」という言葉は日本画家の松井冬子さんの言葉である。
源氏物語」を観て、松井冬子さんの展覧会にも行きたくなったので、
来年横浜まで観に行くと思う。


今年の7月末に亡くなられたレイ・ハラカミさんをトリビュートした番組が、
NHKFMでやっていたので聴いた。
タブラ奏者のU-zhaanさんと矢野顕子さんが司会で、
ゲストにサカナクションの山口一郎さんや、
コメントゲストには細野晴臣さん、原田郁子さんらが、
登場するという豪華な内容だった。
レイ・ハラカミさんが最後に携わった矢野顕子さんとのユニットyanokamiのアルバム「遠くは近い」
を買って最近はよく聴いている。
そういえばハラカミさんの「lust」というアルバムの最後に入っている、
「owari no kisetsu」という曲のPVが、
ハラカミさん本人が撮影していることを知った。
PVから漂ってくる、気付く人にしか気付けないであろう底知れない愛のようなものに、
私は少し笑いながらも涙ぐんでしまう。
そんな素晴らしい映像だ。
矢野顕子さんのことも最近はよく考えていた。
考えていたというかエネルギーを頂いていた。
「中央線」という曲を何度も繰り返し聴いたりした。
yanokami「気球にのって」という曲の歌詞もメロディも、
本当にどこかに飛んで行けそうな、そんな魂の身軽さを教えてもらった。
あと矢野さんの外見の若返り方にも随分感動した。
ぐんぐん伸びやかに、どこまでも自由に声とピアノを自在に操っている矢野さんは、
どんなことを背負っているんだろう、なんていうことまで思っていた。
そんなことをミュージシャンから感じる必要性はどこにもないし、
ましてやそんなものを感じられるのは本人としては嫌かもしれないけれど、
私はそんなことをどうしても感じたり考えたりする質なのだ。
とにかく矢野さんはどんどん元気にこの世を生きて、
創作活動を行っているという現実に力強いなにかを受け取るのである。


よしもとばななさんの「スウィート・ヒアアフター」という本を図書館で借りた。
震災後で大切な人を亡くした人、または実際に亡くなった人に、
向けて書いた本ということで、粛々と読ませて頂きました.
久しぶりのよしもとばなな節は脳内麻薬出まくりで本当に気持ちがよかった。
あの世の描写もこの世の描写もおいしくて気持ちがいいところしか書いてないので、
心がどんどん自由なって喜んでいるのがわかる。
京都、沖縄、ハワイ、イタリア、犬、など、
よしもとばななさんが好きなものや場所がまるごと詰め込んである感じで、
本当に心から楽しませて頂いた。
気持ちがいい文章を書かせたらよしもとばななさんの右に出るものはいないのではないか、
とさえ思った。
大島弓子さんの漫画を思い出したりして、
あの世とこの世を自在に行き来してる人たちはやはり楽しいなーと思ったのだった。
で、何か自分の中のスイッチが「カチ」っと入った感じで、この頃とても眠いのである。
最近よく行くスーパー銭湯にある薄暗い釜風呂に入り、体育坐りでじっとして、
たっぷりと汗を流し、次に二人用ぐらいの小さな露天風呂をひとりで占拠して、
外気に触れている足と腕に風を感じ、仰向けになって、
空を眺めてぼーっとしていたりして、
「本当に役に立たないなー」とか思いながら、
産まれてくる前のことと、死んだあとのことを思い出そうとしたりして、
とにかく一匹の生き物としてシンプルに生きてシンプルに死にたい、
という謎の欲望がむっくりと立ち上がってきたのを確認して、
さらにぼんやりと空を眺めていたのだった。