男どき女どき

向田邦子全集の新版11巻をなんとなく借りた。
その中の「反芻旅行」というタイトルのエッセイが素晴らしかった。
恋も旅も終わったあとに反芻するのが一番楽しいと。
それは確かにそうかもしれない。
たくさんのことを経験して、振り返る時間があるから楽しい。
でも振り返ることもできず、次から次へと経験ばかりが積み重なっていく人もいる。
私はなぜかたくさんの空白の時間が用意されている人生なので、
反芻ばかりしている。
ほんの少しの経験とたくさんの空白。
なんとなくそういう人生だなと思っている。
空白をいかに埋めるかというのが課題であって、
私はこんな風にあてもなく文章を書いてみたり、
読んだ本や聴いた音楽を振り返ってみたりしている。


ほかにも向田邦子さんのエッセイは、
愛のことや、行儀のこと、猫と香水、笑いころげる女の性質、
男の友情、素朴な生き方のこと、
そういう色々な女性ならではのはっとすることが書かれていて、
するすると体に入ってくる素晴らしい文体の素晴らしいエッセイだった。


たしかに女というのは抽象的なことが苦手なのだ。
政治も会社も友情も抽象的で観念的だ。
組み立てるということが苦手なのかもしれない。
もっと単発的で、瞬発力のある、なにか。
心許ない、刹那で、でも確かにそこにあるもの。
そういう曖昧で不確かなものを感知しながら生きているのかもしれない。


より本能に近いところに近づいて、
ふつふつと降ってくる世界をふつふつと言葉にしたいと、
そう思っている。