黒い蛇と白い猫

昔からの分裂気味の体質に具体的な形を与えてみた。
それが、黒い蛇と白い猫。
私は二つの生き物を心の中で飼っている。
どちらも死なない。
いつも私の中に住んでいいて、
私が死んだら二つも死ぬ。
もしかしたら私が死ぬのと同時に、
黒い蛇と白い猫だけ私の中から抜け出して、
別の誰かのところに行くかもしれない。
それは解らない。
まだ死んでいないから。


そんな風に考えてみると、
なんだかとても楽になった。
実は人生をかけてこの2つを飼い慣らす訓練をしているのかもしれない、
とさえ思う事がある。
白い猫と遊んでいると、
突如黒い蛇が現れる。
時々かまってやらないと拗ねるのだ。
黒い蛇と遊んでいると、世の中の真っ黒いところが見えてくる。
真っ黒いところをたくさん見ると、
心が壊れて、縮こまる。
誰とも会いたくなくなる。
そうなると、黒い蛇の思うツボで、
毎日毎日黒い蛇とばかり遊んでしまう事になる。
黒い蛇は寂しがり屋でずっとかまってあげないと怒るのだ。
黒い蛇と遊ぶのに疲れて、ぐてーっとなっているところに、
遠くから白い猫が首輪の鈴を「ちりんちりん」と鳴らして、
こちらにやってくる。
「あー白い猫だー」と猫の目の奥を覗くと、
世界はみるみる白くなる。
白いのは光っているから白く見えるのであって、
逆光の中にいる。
体が軽くて浮いてるみたいだ。
白い猫が歩いて行く方向について行くと、
たくさんの景色が見える。
全て暖かくて柔らかい世界ばかりだ。
ふかふかとした世界を見続けて浮かれていると、
また黒い蛇が地面からにょろりとやってくる。
土から頭だけ出して目を光らせながら私の方をじっと見つめている。


というのを繰り返してるのだ。
きっとこれからも死ぬまで繰り返すんだろう。
そして二つの生き物を飼いならして、
どちらの世界にも慣れて、
どっちかにしがみつこうとしなくなったり、
どっちの世界にも動揺しなくなったら、
私はきっと大人になるんだと思う。