人生通過待ち

たくさんの物語がある。
たくさんの物語が始まり、
たくさんの物語が終わる。
そういうものなのかもしれない。


言葉は物語を伝えていく。
物語から人々は力を得る。
人間を知る。
人の物語を生きて、
自分の物語に帰ってく。


私はたくさんの物語を知っている。
たくさんの物語を吸収して、
たくさんの人々を知る。


私も私の物語を生きている。
私はいつか選ぶのだろうか。
例えば、仕事であるとか、夫であるとか。
するすると、目の前を通過していく。
この世界ときちんと関わっている気がしない。
誰よりも先に忘れ去られる気がする。
それでもたくさんの人達と話しをする。
求められず、求めず。
なんとなくそこにいる。


一人きりで、
誰にも寄りかからず、
信仰もなく、
家族もなく、
そういう生き物であることから逃げながらも、
どこかで求めている。
そういう種類の人間であることを認めるのも、
そう遠くない未来だろう。


音楽をするみたいに、
誰かの楽しませたり、驚かせたり、
そういうことを、なるべく避けていく。
ただ、なんとなく、の人でいて、
早くこのときを過ぎ去っていくのを待っている。
ホームに来る電車を永遠に見送り続ける。


目の前にいる人と深く関われない。
遠くに居る人間と深いところで関わる。