無能の女

母に言われた。
「お前は無能だ」
と。
私は無能だ。
何も産み出さず、
ただ奴隷のように働き続け、
うだつのあがらない日々を生きている。
私には必然が足りない。
誰かと繋がる必然や、
何かを産み出す必然。
世の中は必然で動いている。
しかし私には必然が感じられない。


皆は必然を感じて生きてるのだろうか。
そこにある美しい流れを観て選び生きているのだろうか。
彼らは彼らなりの音楽の中を踊り続けている。
私はいつも足踏みをしている。
踏み出せない。
踏み出さない。
なぜならそこに必然を感じない。
必然を感じないということは、
きっと無能であるという事だ。
神はなぜこのような無能の女を作ったのか、
さっぱりわからないけれど、
それでもどこかで誰かと繋がっているに違いない。
そのような仄かな期待を胸に抱いて、
うら若き乙女を装って、
ずうずうしくも、
ひっそりと生きてる。


私は随分と長い間他者の欲望の中を生きていたような気がしている。
私は私の世界を生きているのだろうか、
と考えたところ、
なかなか私の世界を生きていないのかもしれないと、
思う。
なんとか私の世界をひねり出そうと、
このように、真夜中に、ひとりきりで、文章と向き合って、
うんうんと言葉と取っ組み合いの相撲をとっているのだけど、
私の世界とは一体なんなのかさっぱりわからない。
自分の欲望につかみ所がないと、
こんなにも生きづらいものかと、
思う。


言葉よ、どうか私に世界を与えてくれ。
世界は私に安心をもたらす。
確固たる自己を確立できる。
そうだ、私は自己が欲しい。
自己がない軟体生物のような自分はいつも不安だ。

欲望よ、どうかそのままあるがままで、
世界との繋がりを産み出してくれ。
私は世界を増やしたい。
世界は変えるのではなく増やす。
誰もなにも壊さない。
世界は勝手に壊れるから。
壊れる前に世界を創るんだ。
そんな風にして我々は生き延びていく。
したたかに、逞しくあれ。
この日本人の遺伝子に脈々と書き込まれた記憶に、
そんな風に書いてあるし、
きっとこの世界で暮らしている我々は、
産まれてこれなかった人々と比べて強いから、
こんな風にここに居るんだって、
どこかの本に書いてあったこと今思い出した。